【Vol.03】サロンの経営理念・コンセプトを考える

美容師として独立開業し、美容室オーナーになるまでに必要なこと、知っておきたいことをまとめたこの連載。
第3回は「サロンの経営理念やコンセプト」について解説いたします。

【Vol.01】美容室独立開業の第一歩!「利益目標」から逆算思考で理想の店舗を具体化しよう 【Vol.02】美容室の名前はどう決める? 後悔しないネーミングのポイント

第1回でお伝えした通り、独立開業するとは「一技術者」から「経営者」になるということです。

したがって、店舗をどのように運営するかの舵取りもすべて自分で定めなけれななりません。

そこで重要なのが「経営理念」や「コンセプト」を明確にすることです。

しかし理念やコンセプトと言われても少々漠然としていて、「経営理念とコンセプトってどう違うの?」「そもそもコンセプトって何だろう?」

など疑問に思うことはありませんか? この記事ではそんな悩みを一緒に解決していきたいと思います。

最後には、経営理念やコンセプトを考える際に参考になるよう、有名美容室の経営理念やコンセプトもまとめてみました。自分の思想が反映された理想の店舗を作るため、コンセプトの考え方について学んでいきましょう。

経営理念やコンセプトは店の方向性を決める羅針盤

美容室は平成30年の時点で全国に25万店を超え、コンビニの約4.5倍もの店舗が存在しています。

これだけの数がある美容室ですから、「美容室」とひとくちに言っても店舗によって経営の目的や運営方針は大きく異なっています。 

例えば…

地域のおばあちゃんたちがターゲットの町の個人美容室もあれば、銀座の一等地でセレブ達をターゲットにする美容室もあります。

また、安くて速いカットを売りに全国展開するような美容室もあれば、手間隙かけた髪質改善を丁寧に行う美容室もあるわけです。

そのような中で自分の美容室をどんな美容室にしていきたいのか、スタッフやお客様にわかりやすく示したのが「経営理念」や「コンセプト」です。

経営理念やコンセプトは自分の店がどのような美容室であり、何を目的としていて、他店とどう違うのか、つまりは美容室としてのアイデンティティを明確にするためのものなのです。

  • したがって経営理念やコンセプトは店舗の運営をどのように舵取りしていくか決める際の拠り所となる大事な羅針盤なのです。

経営理念とコンセプトの違い

ところで、「経営理念」や「コンセプト」とはそもそもどんなものなのでしょうか? そしてどう違うのでしょうか?

経営理念

  • 企業が事業を行う上で守るべき信念であり、最も根本となる考え方を表したものです。
    あるいは、企業のアイデンティティであって、社会の中でどのような役割を果たすことを目的とするのか掲げたものです。「フィロソフィ」や「クレド」と呼ばれることもあります。

コンセプト

  • 企業やお店の特徴を分かりやすく簡潔に表現したものです。
    経営理念を実現させるため、誰をターゲットにしてどのようなビジネスモデルで運営するのか、そのようなことを踏まえて会社や店舗の特徴を表現したものがコンセプトです。

経営理念とコンセプトの違いが特に明確となるのは、「サロンが会社として大きくなったとき」です。

例えば、2号店を作るときには異なるコンセプトでお店作りすることはありますが、経営理念は必ず共通したものとなるはずです。

もし美容室以外の事業も行うようになったとしても、すべての事業を貫いて一貫して言えるようなものが経営理念であり、それぞれによって異なるのがコンセプトです。

経営理念やコンセプトを掲げることの重要性

経営理念やコンセプトがなかったとしても美容室を運営することは可能です。

しかし、25万店もある美容室の中でアイデンティティを確立し、「唯一無二の存在として数多くのお客さんにその価値を提供していきたい」と思うのなら是非とも定めておきたいところです。

なぜなら、経営理念やコンセプトは会社・店舗がブレずに成長発展していく指針となるものだからです。

店舗拡大や売り上げ額の増加、さらに抱えるスタッフ数が増えてきたとき、運営方針やビジネスモデルなどが設立当初とは変わってくることもあるでしょう。 

そんなときに設立当初の想いを込めて作った経営理念やコンセプトがあれば、軸となる部分がブレてしまうことなく必要に応じた変化を加えやすくなります。

その結果、支えてくれたファンが離れることなく成長していけるのです。

また、お客様にとってもどんなことを優先順位高く考える美容室なのかわかりやすくなりますので、そこに共感を示す人が集まりやすくなります。

  • 軸があり、目標があり、それに沿って動いている人間や組織というものは誰からみても格好良く見えるもので、単純な話、だからファンとなってくれるのです。

5章でみていく通り、現在の美容業界を牽引しているような美容室の多くがコンセプトや理念をオープンに掲げていることからも、その重要性がわかるでしょう。

経営理念やコンセプトを考える

では、具体的に経営理念やコンセプトはどのように考えれば良いのでしょうか?  また、そもそもですが経営理念とコンセプトは必ずしも両方必要なのでしょうか? 

経営理念は必要?

結論から言いますと、経営理念とコンセプトの両方を必ずしも作らないといけないわけではありません。

実際、都内で活躍する有名美容室だって両方は用意していないことも多いです。では、どこまで用意すれば良いのでしょうか?

  • それは「自分が将来的に事業をどのような規模まで大きくしたいのか」をもとに考えると良いでしょう。

複数店舗展開や他事業への参入まで考えているような会社組織にしていきたいと思うなら、経営理念を掲げておくことがおすすめです。

規模が大きくなるほど、細部にまで自分の目は行き届かなくなってきます。

そんなとき、経営理念は人に任せた店舗にも自分の意志を反映させるための大きなツールになります。

また、経営理念を掲げておき、それに準じるように考えながら事業展開していくことで、どれだけ規模が大きくなっても企業の根底となる哲学を変えることなく発展していくことができるはずです。

以上のように、大規模な組織にしていきたいのなら経営理念は作っておくことがおすすめです。

コンセプトは必要?

  • ズバリ、コンセプトは店舗ごとにしっかり作っておくことがおすすめです

経営理念も作った上でコンセプトを作るのであれば、経営理念を店舗で実現するためにもっと具体的に落とし込んだものがコンセプトです。 

経営理念を公に掲げない場合なら、コンセプトがその役割もある程度果たしていくことになりますので、しっかり自分の経営方針が伝わるコンセプトを掲げるようにしましょう。

参考にしたい有名美容室のコンセプト例

経営理念やコンセプトは非常に重要な位置づけとなるものですから、考えるときは最善を尽くしたいものです。 それでしたら実際に成功している美容室を参考にしてみるのが良いでしょう。

ただ、理念やコンセプトは「自分の意志を反映させたもの」でなければ意味がありませんので、結局考えるときは自分自身でよく考えて決めるということを忘れてはいけません。

あくまで、「有名美容室はどんな感じなんだろう」と雰囲気を見ておく程度に考え、内容については自分で煮詰めるようにしましょう。

まずはLIPPSの公式サイトより、コンセプトを見てみましょう。

『カッコつけていこう。』

すべての人はカッコいい。ほんとうは。

たまたま、かくれているだけ。

それをうまく見えるようにすることが、スタイリングの本質だと思う。

カッコつけると、背筋が伸びる。声が、表情が、前を向く。

カッコつけていこう。

そこに、ほんとうのあなたがいる。

リップスはすべてのお客様にステキになる喜び、幸せ、満足を提供します。

リップスのスタイルはこうなりたいと願うお客様の価値観からつくられるお客様のためのスタイルです

最高の「似合わせ」を叶える

LIPPSのスタッフは、一人ひとりが皆プロのクリエイター。

“お客様をよりステキに。”することを使命として、「心と技術と知識と感性」をいつも磨き続けています。

トレンドを取り入れる、発信するだけではなく、その人の個性を大切に、悩みや要望に心から共感できる“心技一体”でそれぞれのお客様の豊かなライフスタイルにピッタリの「最高の似合わせ」を叶えます。

お客様の満足、よろこびのために。いつも真剣です

私たちは、お客様の満足やよろこびは、自分自身の満足、よろこびだと考えています。

“ステキ”を提供して、お客様から信頼され、ずっと必要とされる、そんな美容室であり続けたい。

そのためには、お客様への愛情と、努力し続ける覚悟が不可欠です。私たちは謙虚で品格あるふるまい、正確で丁寧で繊細でスムースな仕事を心がけ、お客様にいつも本気で、真剣に向き合います。

居心地がいい、だけじゃない。活気溢れるポジティブな空間

LIPPSのテーマカラーである赤と白を基調に、随所にこだわった店内。

でも、お客様に通い続けたいと思っていただける本当の居心地の良さはインテリアだけでは生み出せません。

LIPPSのスタッフは常にお客様のためを考え、率先して行動します。

お客様を“より、ステキ”にしたい、スタッフ一人ひとりのそのポジティブな想いが、活気に溢れる明るい空間を実現しているのです。

LIPPS コンセプト

LIPPSは公式ページでコンセプトを公開していますが、内容を見てみると最初の『カッコつけていこう。』はどちらかというと経営理念よりの感じがします。 

MINXは「お客様の文化になる」を企業理念として掲げています。 以下はMINXの公式ページより引用です。

MINXは、「お客様の文化になる」ことを会社理念としています。“文化”とは、人が生きていくのになくてはならないものです。

MINXは、お客様が日々を美しく楽しく、生き生きと過ごしていくのに、ヘアを通じてなくてはならない美容室、美容師になることを目指しています。

その為には、スタッフ一人ひとりの向上こそが明日をつくる原動力になります。MINXでは、お客様に支持される「人材育成」が経営のすべてと捉え、「人を育てる環境」に力を入れています。

環境とは「教育」によって創られます。デザイン、技術、接客はもちろんのこと「人間を高める」「心を高める」教育によってお客様の文化になれると信じています。

MINX 会社概要

ALBUMは「トレンドヘアを毎月通える価格で提供」をコンセプトに掲げています。

その中で”ファストサロン”というワードを打ち出し、まるでファストファッションメーカーのように、最新を追いかけつつ、クオリティの妥協をしない中でも低価格を実現する姿勢を見せています。

以下引用です。

「トレンドヘアを毎月通える価格で提供」

最新トレンドヘアーを低価格で提供する”ファストサロン”

ファストファッションメーカーのように

めまぐるしく変化する世の中のトレンドを素早くキャッチし、

誰にでも手の届くお手頃なプライスで

新しいライフスタイルを提供できるような

サロンを目指しています。

ALBUM コンセプト

続いてはメンズカットで人気のOCEAN TOKYOが掲げる経営理念を見ていきましょう。 以下、引用です。

私たちの理念

OCEAN TOKYO が⽬指す3つの再発明

1、「⾃信」を再発明する。

変化が激しく正解のない時代だから。若い⼈が⾃信を持って⾃分らしく⽣きていけるように、美容体験を通じて応援していきます。

⾃分⾄上最⾼の髪型をつくること。新しい⾃分に出会うこと。互いに⼈⽣を共有し、少しでも価値観を広げ向上⼼をつけるお⼿伝いをすること。

美容師という⾝近な存在だからできる⽅法で、世界中の若者とつながり、⾃信を創り出していきます。 

2、「美容師」を再発明する。

ネガティブに語られがちな美容師という職業。OCEAN TOKYO は⾃分たちが前線に⽴って、イメージを変えていきます。まずは仕事をいきいきと楽しむこと。働きやすい環境をつくること。髪を切るだけではなく、積極的に情報発信し、夢を語ること。

過去のロールモデルを超えたスタイルを実践することで、美容師の社会的地位を⾼め、誰もが憧れる職業にします。 

3、「美容ビジネス」を再発明する。

美容室はただ髪を切るだけの場所じゃない。これまでの考え⽅や習慣に囚われることなく、新しい美容ビジネスのあり⽅を追求します。

ヘアスタイルから派⽣したプロダクト開発。⼈を軸としたメディア展開。カルチャーを武器としたコミュニティづくり。美容界に新たな価値観や仕組みを提案していくことで、21 世紀の美容ビジネスを切り拓きます。

OCEAN TOKYO Philosophy

2020年現在の美容業界を牽引するカリスマ美容師のひとり、中村トメ吉が率いる美容室GOALDは明確で力強く理念などを掲げています。

GOALDは「美容師は世界だって変える」という理念を掲げています。 人ひとりの人生に密着して、髪型が変わったことを機にその人の毎日が、人生が変わっていくこと、そしてそれはつまり世界を変えていくことだと謳っています。 

そして、そんなGOALDの存在意義は「徹底的な人対人。人生密着型」 さらにそれを実現するための3つのミッションとして

  1. 男の自信をつくる。
  2. 美容師の格を上げる。
  3. 美容師の可能性を広げる

を掲げています。 「人」を大事にするGOALDの姿勢が見えてくる素晴らしい理念・存在意義・ミッションですね。
全文はこちらから確認できます。

まとめ

以上、今回は「サロンの経営理念・コンセプトを考える」というテーマでお話しました。 ポイントをおさらいしておきましょう。

  • 経営理念やコンセプトは店舗の運営をどのように舵取りしていくか決める際の拠り所となる大事な羅針盤
  • 「経営理念」とは、企業が事業を行う上で守るべき信念であり、最も根本となる考え方を表したものである
  • 「コンセプト」とは、企業やお店の特徴を分かりやすく簡潔に表現したものである
  • 経営理念は企業全体を貫く根底となる哲学で、他店舗展開・他事業展開したとしても変わるものではないが、コンセプトは店舗ごとに考えて変えることも多い

経営理念やコンセプトが明確になっていて、それがお店作りやスタッフの意識にまでしっかり行き届いているお店は総じてお客様から見ても魅力的な美容室です。 ぜひそんな美容室作りができるといいですね!

次回の第4回は「美容室開業資金」についてお話いたします。 この記事が少しでもあなたの独立開業の助けになれば幸いです。