ー美容師として自分の店舗を構え、オーナーとなる。
独立開業を考えるとき、イメージするのは店舗のことやサロンワークのことが主となるでしょう。しかし無視できないのが「お金」に関することです。
この連載でも前回までに「収支計画」や「開業資金」について解説してきましたが、もう一つ忘れてはならないのが「税金」に関すること、すなわち「確定申告」です。
個人事業でも法人でも、独立開業したら確定申告(法人の場合は決算申告)が必ず必要です。今回から数回に渡って「独立開業前に知っておきたい確定申告について」解説いたします。
「確定申告」と聞いてあなたは「開業時に何か税金関係の手続きとかいらないの?」とか「法人として会社登録すると確定申告ってどうなるの?」など疑問に思ったことはありませんか?
この記事ではそんな悩みを解決するため、確定申告についての基本的なことを解説致します。それでは一緒に勉強していきましょう。
個人でも法人でも確定申告(決算申告)は必須
これまで雇われの一社員としてサロンで勤務していたのなら税金に関することは会社に任せておけましたが、独立開業すると自分の店舗(会社)の売り上げ・収支に関する申告を自分でしなければなりません。
個人事業であろうと法人であろうと、申告は避けて通れないのです。
したがって、確定申告(決算)に必要な書類や手続き、経費や売り上げの記録の仕方など最低限度のことは必ず知っておく必要があります。
それではまず、美容室を「個人事業としてはじめる場合」と「法人登録して会社としてはじめる場合」でどのような違いがあるのか簡単に解説してみましょう。
個人の場合の確定申告について
個人事業として店舗経営を始める場合、必要なのは“オーナーである自分自身の確定申告という形で店舗の売り上げ収支を申告すること“になります。店舗としてという形での申告は法人にならない限り必要ありません。
税務上は店単位で考えるのではなく、売り上げも材料代も、スタッフに払う給料も全てオーナー個人の収入と支出として計算されるのです。
個人事業の場合、「所得税」「消費税」「復興特別所得税」の3つの税金について申告する義務があります。ただし、消費税については”2年前の売り上げが1,000万円を超える場合に納税義務が発生”しますので、少なくとも開業してすぐは考えなくても問題ありません。
また、「住民税」などその他の税金については所得税の申告さえしておけば計算してくれて納付額の通知をしてくれます。
確定申告は「白色申告」と「青色申告」という2種類の申告の仕方から選ぶことができます。どちらの場合であっても申告するためには売り上げや経費を全て漏らさず記録し、集計して損益の計算をする必要があります。
白色申告の場合は収支さえわかれば問題ないので記録は「単式簿記」と呼ばれる簡易式なものが用いられており、家計簿のように記録するだけなのでそこまで勉強しなくても簡単に行えます。
青色申告の場合、「複式簿記」という方法で記入された帳簿の提出が必要ですので、自分でやる場合はやや知識が必要になります。
どちらの申告方法を用いるにしても、必ず事業の収支を確定申告する必要があり、そのために売り上げと経費を把握し、収支の計算をできるようにするための準備が必要なことを覚えておきましょう。
法人の決算申告は必要な手続きが多い
法人の場合、申告すべき税金の種類が多くなり法人税など5種類の税金についてそれぞれ書類を作成して申告する必要があります。
当然ながらその分手続きに必要な作成書類の数も多くなり、「総勘定元帳」「決算報告書」など8種類の書類をまとめて提出する必要がります。
このように個人事業と比べて法人の場合税務の申告手続きは煩雑になりますが、売り上げ額が一定以上になると個人事業よりも節税効果は大きくなります。
個人事業の確定申告
それでは、まず個人事業の場合の確定申告について解説していきましょう。
確定申告の時期
個人事業主の確定申告の時期は決められていて、1月1日〜12月31日までの収支を計算し、翌年2月16日~3月15日の間に申告することになっています。
ただし、2020年の確定申告はコロナウイルスの影響もあって1ヶ月延長され、4月16日まで受け付けることが国税庁から発表されています。場合によっては来年以降もこの流れが継続される可能性もありますが、元に戻る可能性もありますので注意しましょう。
白色申告と青色申告の違い
先ほども簡単に白色申告と青色申告の違いについて説明しましたが、もう少し詳しく違いを理解していきましょう。
白色申告と青色申告それぞれのメリット・デメリットを簡単にまとめてみます。
メリット
- 事前に申請する必要がない
- 家計簿のように簡単に記帳するだけでOK
- お金の動き全てを詳細に記載しないでもOK
※青色申告なら1日の中でのお金の動きを詳細に記帳する必要がありますが、白色申告なら1日の中で収入や支出をまとめた形で記載しても構いません
デメリット
- 青色申告で受けられる節税効果が受けられない → 事業が黒字の場合、支払うべき税金の額が多くなる
- 家族への給料を経費にすることができない
- 自宅で仕事している場合でも、家賃や電気代等を経費にすることができない(自家用車の費用やガソリン代も)
メリット
- 複式簿記で記帳していれば65万円の控除が無条件で受けられる
- 簡易簿記で記帳していても10万円の控除が無条件で受けられる
- 赤字を3年間まで繰り越して、来年度以降の黒字と相殺できる
- 家族への給料を経費に計上できる
- 自宅で仕事している場合、家賃や電気代等の一部を経費に計上できる(自家用車の費用やガソリン代も)
- パソコンなどの30万円未満の固定資産を減価償却なしに全額経費にできる
デメリット
- 事前の申請書を出しておく必要がある
- 65万円控除を受けたい場合、複式簿記による記帳が必要
- 提出書類が多くなる
青色申告をする大きなメリット
上の比較を見るとわかるように、青色申告には大きな節税効果がありメリットが非常に大きいことがわかります。
特別控除によって65万円分もの所得が減額されるだけでもかなりの違いですし、家族に事業を手伝ってもらっている場合はさらに変わってきます。
毎月8万円の給料として家族に手伝ってもらっている場合、年間で96万円もの所得の違いを生みますので、それだけ支払うべき税金も変わってきます。
また、赤字になってしまった場合はその赤字を来年度に繰り越す ことができますので、例えば「今年は大きな設備投資をしたから1年だけ収支がマイナスになってしまった」なんて場合はそのマイナス分を来年度の黒字と相殺し、来年度の税金をやすくすることが可能です。
これらのようにメリットが大きい青色申告ですが、確かに記帳は少々大変になり知識が必要ではあります。しかし、会計ソフトを利用すればだいぶ作業を簡略化できますし、なんなら税理士・会計士に依頼することも可能です。
実際のところ、青色申告をしないのはかなり損だと言えますので、「開業したら青色申告をするもの」だと思っているべきでしょう!
個人事業の確定申告までの流れ
では、確定申告はどのような流れでしていくのでしょうか? 実際のところいつ何をすればいいのか分かるように解説しましょう。
1. 普段から記帳をしていく
確定申告時期は年度が終わって翌年2月〜3月頃ですが、近くなってから準備をしたのでは非常に大変で間に合いません。
また、日頃からやっていれば覚えているから簡単なことも、後になってやろうとすると非常に手間も増え、抜け漏れも起こりやすくなります。
日々記録をつけるべきなのは現金の動きを記録した「現金出納帳」と呼ばれるものです。売り上げが上がったら収入として記帳し、材料代などを現金支払いしたら支出として記帳します。
例えば…
サロンで提供しているコーヒーなどの代金も経費になりますので、業務で使うものを買い物に行って現金支払いしたなら領収書をもらってそれも支出として記録します。
「現金出納帳」という名前からなんとなく紙での記録をする必要がありそうですが、別に紙にこだわる必要はありません。パソコンを使ってExcelファイルで管理しても構いませんし、もっと良い手段としては会計ソフトを利用することです。
日々の現金収支を会計ソフトに入力しておけば、ソフトの機能で確定申告に必要な記入項目を自動で計算して書類を作成してくれますので、かなり作業を簡略化できます。
実際、紙ベースで記帳する方が何かとわかりやすかったりするのも事実ですので、自分にあったやり方で記帳するようにしましょう。
また、売り上げ伝票や領収書等は全て取っておく必要があります。わからなくならないように日々の分を1日ずつまとめてノートに貼るなりファイルにしまうなり、自分がわかりやすいように毎日管理すると良いでしょう。
ちなみに、カード払いや口座引き落としなどについてはカード明細や銀行の通帳がそのまま帳簿として機能しますので、普段は特段何もする必要はありません。
ただし、会計ソフトで最後必要書類を作成したいならソフトにもデータを転記しておく必要があります。
とは言っても必ずしも全部自分で入力しなければならないわけではなく、カードや銀行の使用履歴をダウンロードしてソフトで読み込んだりすることもできますし、最近のクラウド型のソフトなら提携銀行・提携クレジットカードの使用状況をインターネットを経由して自動で取り込めるものもあります。
2. 年度末に在庫の棚卸しをする
日々(1)のように現金出納帳を記帳し続けたら、最終営業日時点で「棚卸し」という作業を行います。
これは年度末時点で店舗に残っている材料や店販品を「資産」として計上するために行うものです。残っている材料や店販品を全て数え上げ、その仕入れ値によって資産として計上します。
3. 確定申告に必要な書類を揃える
2/15から確定申告の受付が始まりますので、年度が変わったらそれに備えて書類準備を進めていきます。青色申告に必要な書類は以下の通りです。
- 青色申告決算書
- 確定申告書B
- マイナンバーカードの写し or マイナンバー通知カードと本人確認書類の写し
4枚から構成されていて、1〜3枚目は「損益計算書」とそれの詳細、4枚目は「貸借対照表」と呼ばれるものです。どちらも日々記帳してきた出納帳などをもとに作成します。
もちろん自分で知識をつけて計算して作っても結構ですが、日々の記帳を会計ソフトで行っていれば、自動でこれらのシートも作成することができます。
あるいは自分でつけた現金出納帳や通帳のコピーなどを税理士・会計士に預けて作成してもらうことも可能です。
こちらは所得税を計算するための用紙です。通常2枚あります。
これらの書類も会計ソフトなら自動作成できますし、依頼すれば税理士・会計士に作成してもらえます。
4. 確定申告手続き
書類が揃ったら期限の間に手続きをしにいきます。
毎年期限終了間際は税務署が大変混雑しますので、早めに終わらせてしまった方が良いでしょう。
5. 確定申告後
確定申告後も記帳した現金出納帳や銀行通帳など、あるいは領収書などは一定期間保管しておく必要があり、何か事情があって税務署の調査が入った場合などはすぐに見せられるようにしておく必要があります。 処分することのないようにしましょう。
法人の場合
法人の場合は個人と違って決算時期を会社ごとに自分で定めることが可能です。決算の申告は会社で定めた決算月から2ヶ月以内と決められています。
第139回 国税庁統計年報 平成25年度版を参考にすると、大企業では50%以上の会社が決算月を3月に定めており、法人全体でも20%が3月を決算月にしています。
3月決算は国の政策の施行が4月1日からのことが多いので、決算月を3月にしておくと便利なことが多いにメリットがあるからです。
ただし、3月は多くの会社が決算月にしている上、個人事業主の確定申告とも重なるので税理士・会計士が繁忙期で十分に余裕を持った対応をしてもらえない恐れがあります。
必要書類の数が多く、作成の難易度も高くなるので基本的に会計士や税理士にお願いすることになると思いますので注意しましょう。
まとめ
以上、今回は「独立開業前に知っておきたい確定申告についての基礎知識」について解説いたしました。
今回の内容をおさらいしておきましょう。
- 確定申告は個人事業でも法人でも必ず必要
- 個人事業の場合、白色申告か青色申告から選んで申告を行う
- 白色申告の方が簡単ではあるが、青色申告は節税面で大きなメリットがあるので出来るだけ青色申告を利用したい
- 青色申告をするために最も大切なのは「日々溜めないで記帳すること」と「伝票・領収書等の保管」
- 自分で確定申告するなら記帳は会計ソフトを利用するのが簡単。あるいは税理士・会計士に依頼するのもアリ
まとめの中にも書いた通り、最も重要なのは「日々溜めないで記帳すること」と「伝票・領収書等の保管」です。
もし1年分の記帳をしないで放置していた場合、確定申告の準備に必要な作業は膨大で数日で終わるようなものではありません。それこそ正月返上でやっても終わらなくなってしまうでしょう。
それ以前に記帳作業は毎日レジのお金について異常がないかのチェックをすることにもなりますし、日々お金の動きを理解することで経営に活かすこともできます。面倒に思わず必ずやるようにしましょう。
次回はまさにその点についてもっと詳しい解説をしていきます。第8回は「確定申告に備えて日々行うべきこと」について詳しく解説いたします。
この連載があなたの美容室開業の助けになれば嬉しく思います。