【Vol.09】開業前準備にかかった費用も経費になる! 準備費用の記録と保管

美容師として独立開業し、美容室オーナーになるまでに必要なこと、知っておきたいことをまとめたこの連載。 今回の第9回では「開業準備費用の記録と保管」について解説いたします。


ー開業準備のために不動産屋に訪問する、または物件を見に行く。
ーあるいは貸しオフィスを利用したり、書類を印刷したり。

このような開業準備のための活動にも当たり前ですがお金がかかります。

あなたは、「開業前にかかったお金って経費になるの?」「開業準備中の領収書やレシートもとっておいた方がいいの?」などと疑問に思ったことはありませんか? 

先に答えをいってしまうと、開業準備中にかかった費用もきちんと記録・保管をしておけば開業後に経費として計上することができます。

この記事では、そんな「開業費」についての疑問を解決するため、詳しく説明していきます。

開業準備にかかった費用も経費になる! 経理上の「開業費」とは?

  • 先ほど書いた通り、開業の準備にかかった費用も開業後に経費として計上することができます。

開業準備段階でかかった費用のことは経理上「開業費」または「開業準備費」と呼ばれます。経理上の開業費の取り扱いについてまず簡単に理解しておきましょう。

1. 経理上の「開業費」は経費扱いではない

先ほど「経費になります」と言いましたが、厳密にいうと開業費は経費扱いではありません。 経費は損金のひとつですが、開業費は「繰延資産」という資産の科目の一つです。

資産と言われてもピンとこないかも知れませんが、これは「開業準備」というものが消耗品のような使い捨てのものではなく、一度買ったことで長くその恩恵を受けられる「固定資産」のようなものだという考えから来ています。

例えば…

12万円で業務で使うパソコンを買ったとしましょう。 パソコンは一度買ったら長く使えるもの「固定資産」の購入として扱われます。 固定資産は経理上、買ったその場で全額経費とはせず、耐用年数を考えて少しずつ経費化されます。

上の例であれば、パソコンの耐用年数は経理上4年とされていますので、12年を4年で割って、1年につき3万円ずつが経費として計上されるのです。

このような考え方を「減価償却」と言います。

開業費もこのような固定資産と同様の考え方をします。

開業費はその後の事業のために先行投資しただけで、その後何年にも渡ってその恩恵を受けられるものなので、減価償却によって少しずつ経費化していくのです。

2. 開業費は任意償却できる

しかし、開業費はパソコンなどの固定資産と違って「耐用年数」のような目安がありません。 何年かけて減価償却すれば良いのでしょうか? 

開業費の減価償却は基本的には「均等償却で5年」とされています。しかし「任意償却」という減価償却の仕方も認められているので、こちらを利用することをおすすめします。

任意償却を選択すれば、償却の期間や毎年の償却額を任意で決めることが可能です。

  • つまり、初年度は全く減価償却せず、5年後に全額をまとめて減価償却するなど、自由に決められるわけです。

開業当初は色々な費用がかかりますし、集客も軌道に乗せるまで時間を要する場合があります。 ときには開業当初は赤字になってしまうこともあるかも知れません。

そんな場合、売り上げが伸びるまでは開業費の償却をせず、黒字化して来てから償却し始めることで節税効果が高まります。

参考

開業準備費用として経費になるもの・ならないもの

以上のように、任意償却が可能な開業費は節税にとても役立ちますので、きちんと計上できるように準備しておくことが重要です。

では、どんなものが開業費として認められるのでしょうか?

1. 開業費になるもの(個人事業主)

どんなものが開業費として認められ、どんなものは認められないかは「個人事業主」「法人」とで違いがあります。

ざっくり言えば、個人事業主ならば「開業準備にかかった費用」の多くが開業費として認められますが、法人の場合は「会社設立のために特別にかかった費用」しか認められません。

個人事業主の場合、基本的に「費用全て」が開業費として認められますので、とにかく領収書やレシートを取っておくことが重要です。 

具体的には、以下のような項目が開業費になると認められています。

  • 物件探しのための旅費やガソリン代
  • 電話や調査のために利用した通信費用
  • 広告宣伝のための費用(ポスターやホームページの作成費用など)
  • 開業セミナーなどの参加費用
  • 経理や開業のための教材購入費用
  • 経理ソフトの購入費

2. 開業費にならないもの(個人事業主)

では、個人事業主の場合でも開業費にすることはできない項目はどのようなものがあるのでしょうか? 

具体的にあげると、以下のような項目は開業費に計上できないとされています。

ひとつで10万円以上するもの

これは先ほどあげた通り「固定資産」になるので、資産として計上し減価償却によって少しずつ経費化します。 そのため開業費の中には含めません。

物件の敷金・礼金

敷金や保証金といった「後で戻ってくるお金」は経費ではないので、開業費に入れることはできません。 

礼金は戻ってこないため費用として認められますが、こちらは経理上別の処理が必要となっていて開業費には含まれません。

材料や店販品の仕入れにかかった費用

利益を直接的に生み出すためにかかった費用のことを経理では「売上原価」と言います。

材料や店販品の仕入れはまさにこの売上原価にあたるため、開業費に含めることはできません。 売上原価の仕訳の仕方に沿って処理します。

3. 法人の場合

法人の場合は個人事業よりも開業準備の費用として認められる範囲が狭くなっています。

  • 例えば、従業員(家族含む)へ渡した給料や、物件の水道光熱費などは開業準備の費用として認められません。

法人の場合は「会社設立・開業に直接的にかかった費用」のみが認められ、大きく分けて「創立費」と「開業費」に分けられます。

「創立費」とは会社の設立準備から登記までにかかった費用を言います。 以下のようなものが含まれます。

創立費

  • 登記にかかった司法書士や行政書士の費用
  • 事務所の賃貸料
  • 登記するために要する印紙代など
  • 金融機関の手数料

そして登記して会社を設立した後、実際に営業を開始するまでにかかった費用は「開業費」と呼ばれます。 以下のような項目が含まれます。

開業費

  • チラシなどの広告宣伝費
  • 印鑑や名刺の作成費用
  • 営業開始前に行った社員の研修費用

先ほど述べた通り、開業前の給料や水道光熱費は含まれないので注意しましょう。

開業準備費用を経費にするために必要なこと

さて、以上のように開業準備期間にかかった多くの費用が開業費として認められるのですが、そのためには開業準備にかかった費用がきちんとわかるようにしておく必要があります。

具体的に必要なのは、「領収書やレシートの保管」「かかった費用の記録」です。

領収書などをスクラップして保管する

開業後はもちろんですが、開業準備中のうちから何かにお金を使ったら領収書・レシートを忘れずにもらって保管することを徹底する癖をつけておきましょう。

開業準備にかかった費用はノートやスクラップ帳に貼っておいたり、ファイリングしたりなど、後で見やすいよう保管しておく必要があります。

  • 2020年現在の税法では「データの電子保管のみ」というのは認められていませんので、現物を取っておく必要があります。

開業後も重要なことですので、後々確認しやすいように整理して保管しましょう。

開業準備費用の記録をつけておく

そしてもうひとつやっておきたいのは開業準備にかかった費用の記録です。

簿記が得意な方でしたら初めから仕訳して記帳してしまっても良いですが、とりあえずは日付順に支出項目がわかるようになってさえいれば良いでしょう。

Excelなどを利用して日付・内容・金額がわかるように管理しておけば問題ありません。

電車によく乗るならSuicaやPasmoの乗車履歴も残しておこう

開業準備をしていると何かと移動が多いため、電車移動がメインの方でしたらSuicaやPasmoの利用も増えてくることでしょう。 これらの利用記録も残しておく必要がありますが、注意点があります。

Suicaの利用記録はWebから「乗車記録」を確認・印刷できるのですが、履歴は直近50件しか保管されません。pasmoに至っては直近20件しか保管できません。

したがって、こまめに利用記録を確認して印刷しておいた方が良いでしょう。自分の利用頻度に合わせて「毎週月曜日に印刷する」「毎月月末に印刷する」など決めておくと良いでしょう。

参考

まとめ

以上、今回は「開業準備費用の記録と保管」について解説いたしました。今回の内容をおさらいしておきましょう。

  • 開業準備のためにかかった費用も開業後の経費にすることができる
  • 開業費は一度に経費化されず、資産として任意償却という方法で経費化できる
  • 個人事業主と法人の場合で開業費の扱いが違うので注意
  • 開業準備段階からきちんと領収書・レシートを保管しておき、整理して保管・記録することが重要
  • SuicaやPasmoの乗車記録は定期的な印刷をしないと消えてしまうので注意

次回は「日々の会計業務についての基礎知識」について解説いたします。

この連載があなたの美容室開業の助けになれば嬉しく思います。