ー美容室経営成功の鍵を握る、不動産選定
独立開業したサロンが成功するか否か、70%以上を決めると言われる不動産選定。本連載では前回から「候補物件を見つけてからの動き」について解説しております。
【Vol.22】候補物件についての詳細調査今回は「賃貸契約の流れと注意点」について解説いたします。賃貸の契約書は小難しく、説明してもらっても細かい内容までの理解を一度にするのは難しいものです。
そこで契約前に、この記事で抑えておくべきポイントを理解しておけば不利な契約をするのを防ぐことができます。不動産契約を控える方はぜひご覧ください。
賃貸契約の流れとスケジュール
店舗物件の賃貸契約は次のどちらかの流れで進みます。
- 申込み → 物件交渉 → 仮契約 → 契約
- 申込み → 仮契約 → 物件交渉 → 契約
どちらにせよ、申し込みしてから実際にオープンできる状況が整うまでそれなりの時間を要します。そのため、物件はオープンの3か月前までに決定する必要があります。
候補物件を見つけてから契約までにやること
- 物件の内見
- 物件の周辺調査
- 内装工事の見積もり
- 収支のシミュレーション
- 仮契約や申込み
- 融資の準備・融資面接・融資の決定
- 内装工事
- 保健所の立ち会い・許可
物件探しと事業計画書の作成は並行で進めておく
少しでもスピーディーに進めるためのポイントは、理想の物件が見り次第すぐに融資面接を受けられるよう、早い段階で事業計画書をある程度完成させておくことです。
物件探しをする前、あるいは物件探しと並行で進めておきましょう。
内見・交渉・仮契約
候補物件を見つけてから実際の契約までに、前述の通り内見・条件交渉・仮契約と周辺調査をしていきます。
周辺調査については「Vol.22 候補物件についての詳細調査」で解説したとおりです。
そちらの記事でも解説しましたが、周辺調査をしっかり行うことで、条件交渉も有利に進めることができます。同じ建物内の他のテナントさんから家賃を聞いておくなどすることで、適性な契約条件を判断する材料が手に入るからです。
契約内容の確認 | 確認のポイント
内見等も終わり、仮契約をして融資審査も通れば、いよいよ契約となります。契約には十分慎重に行う必要があります。
特に確認すべきポイントは次の4点です。
- 契約時に支払う費用
- 契約期間(普通借家契約か?定期借家契約か?)
- 修繕費用について
- 原状回復について
契約時に支払う費用
契約時に必要な費用を大別すると、この4つがあります。
- 保証金(敷金)
- 礼金
- 仲介手数料
- 保証料
アパートやマンションの賃貸契約と同様、保証金/敷金は退却時に返却される預け金です。ただし、店舗の場合は高額に設定される場合が多く、家賃半年〜1年分ほどが相場です。
基本的には、借り主が家賃を滞納した場合の担保として、そして借り主が通常の使用を超えるような使用をした場合の損傷等の復旧にあてる費用として預けるものです。
ただし、店舗物件の賃貸契約の場合は「解約時償却費」が設定されていることも多いため注意が必要です。
すなわち保証金/敷金のうち、戻ってこない分の定めです。法律上、保証金/敷金は原則全額返金とされていますが、解約時償却費が契約で定められている場合、その分が返却額から差し引かれます。
償却については『解約時償却費として賃料の○ヶ月分』『保証金の○%を差し引き返還する』などと記載されています。必ず確認しておきましょう。
礼金は謝礼として支払う費用のことです。退去しても返還されることはありません。
こちらは住居の賃貸契約と同様、家賃1ヶ月〜2ヶ月分程度が相場です。
仲介してもらった不動産業者に支払う手数料です。これは法律により限度額が決められており、基本的に月額賃料の0.55ヶ月分の範囲内です。
連帯保証人を立てない場合に利用する「家賃保証会社」へ支払う費用です。連帯保証人と家賃保証会社については4章・5章で詳しく解説いたします。
契約期間
契約期間に関する取り決めで最も重要なのは、「普通借家契約なのか? 定期借家契約なのか?」という点です。これは後で「知らなかった」では済まない、非常に大切なポイントです。
一般的な賃貸契約です。契約期間は2年程度が多く、借り主が引き続き使用を希望する場合、契約を更新することができます。
契約期間途中での解約を希望する場合の、解約の予告期間や直ちに解約する場合に支払う金額についての特約を定めることが多いです。
基本的に契約更新がありません。定期借家契約の場合、契約期間終了と同時に借家の明け渡しをします。ただし、次の希望者が決まっていない場合、再契約することは可能です。
また、中途解約はやむを得ないと認められる正当な理由がない限りできません。
修繕費用について
入居前の物件について修繕が必要な場合、貸し主が修繕をしてから物件を引き渡すのが一般的です。
ただし、物件によっては現状のままの引き渡し契約となっており、修繕費は借り主が負担する場合もあります。
原状回復について
原状回復とは、退去時に店舗を契約前の状態へ戻すことです。国土交通省が定める「原状回復をめぐるトラブルガイドライン」によれば、
- 借り主の通常使用による物件の損耗 → 貸し主負担
- 借り主の故意や過失による物件の破損・損耗 → 借り主負担
とされています。ただし、本来は貸し主が負担するべき負担まで借り主が負担することを定める特約がついている場合もあります。必ず詳細を確認しましょう。
原状回復については国土交通省がトラブルガイドラインを設定していることからも分かるとおり、退去時のトラブルが起こりやすいポイントです。
2020年4月の民法改正の影響
2020年4月に民法が改正され、事業用の不動産契約についても変更がありました。変更があったのは「連帯保証人」に関する内容です。
今回の不動産契約に関する民法の改正は、連帯保証人の保護が目的となっています。主に、次の3点が新たに定められました。
- 変更点①: 借り主だけでなく、貸し主も連帯保証人に合意をとる
- 変更点② :連帯保証の極度額を設ける必要がある
- 変更点③: 貸し主から連帯保証人へ借り主の情報を提供する
変更点① 借り主だけでなく、貸し主も連帯保証人に合意をとる
これまでは借り主が連帯保証人と合意をして書類を用意するだけでしたが、民法改正により貸し主も連帯保証人と直接連絡をとって合意をとることが義務化されました。
契約内容や自分が負うリスク・責任をきちんと把握しないまま連帯保証人となってしまうことを避けるための仕組みです。
変更点② 連帯保証の極度額を設ける必要がある
契約時に、連帯保証人の極度額(責任限度額)を定めることが義務化されました。
連帯保証人が支払うべき保証金の上限を定める必要があり、この極度額が記載されていない契約は無効となります。今のところ、家賃1年分程度が極度額の相場となっています。
変更点③ 貸し主から連帯保証人へ借り主の情報を提供する
賃し借人から連帯保証人への情報提供が義務化されました。貸し主は連帯保証人に対して、以下の内容を提供することが義務となっています。
- 借り主の財産状況
- 借り主の収支状況
- 借り主の債務状況
- 借り主の債務返済状況
- 貸し主に担保提供している場合の担保情報
今回の民法改正の最大のポイントはこの点でしょう。連帯保証人をお願いする相手には、自分の財産や収支などの情報を全て知られることになります。
この民法改正により、連帯保証人を利用しにくいと感じる方も多いと思います。そのような場合、連帯保証人をつける代わりに家賃保証会社を利用することになります。
賃貸保証会社
上記の通り、連帯保証人を見つけるのは困難です。極度額がつくなど民法改正以前よりはリスクが小さくなったものの、それでもやはり連帯保証人が背負う責任・リスクは大きいです。
それだけに、連帯保証人の依頼はしにくいものですし、受け入れてもらうにはそれだけの信用が必要です。
しかし連帯保証人を見つけられなけれな物件を借りることはできませんので、そんなときは「家賃保証会社」を利用しましょう。
家賃保証会社とは、すなわち連帯保証人の代行をしてくれる会社です。費用が当然必要にはなりますが、連帯保証人が立てられない場合には頼りになります。費用の目安は年間で家賃1ヶ月分の20%前後です。
まとめ
- 物件はオープンの3か月前までに決定する必要がある
- 物件探しと事業計画書の作成は並行で進めておくことで、物件決定からの流れを少しでも早くできる
- 契約が「普通借家契約なのか? 定期借家契約なのか?」は必ず確認すること
- 入居前の修復にかかる費用や、退去時の原状回復についての契約内容はよく確認しておくこと
- 2020年の法改正により連帯保証人を立てるのが難しくなったため、連帯保証人をお願いできる人はいるか、家賃保証会社を利用するのかについてはよく検討すること
次回は、「内装工事の費用と流れ」について解説いたします。
この連載があなたの独立開業の助けになれば幸いです。