ー独立して自分の美容室を持ち、自分で経営する。
自分の店を持つとなれば、誰しも理想の店舗にしたいと思うものです。「店内はこんなイメージにしたい」「あのカラー剤を使いたい」「売り上げはこのくらい欲しい」など、いろいろ考えることでしょう。
考えているうちに「賃料などの費用はどのくらいかかるのか」「売り上げをどのくらい上げれば十分な収益が上がるのか」などについて疑問に思ったことはありませんか?
こちらの記事ではそんな悩みを解決し、みなさまの独立に役立つ情報を細かくまとめていきます。
今回の連載では、筆者が実際に美容室開業をするまでに行ったステップや、それに至るまでの試行錯誤を掲載していきたいと思います。
美容室独立開業とは、「一技術者」から「店舗経営者」になるということ

美容室独立開業をする上で非常に重要なことは、「売上ベース」の考え方を改め「利益ベース」で考えることです。
なぜわかりやすい売上ベースではなく、利益ベースで目標を考える必要があるのでしょう?
基本的に独立開業したいと考える美容師は誰しも技術者かと思います。 となると、技術者として思い描く理想の店舗イメージは以下のようなものではないでしょうか?
- 取り扱う技術や材料・機器のこと
- ターゲットにするお客さんのイメージ
- どんな雰囲気のお店にしたいか
- 何人くらいのスタッフがいるお店にしたいか
- 月にどれだけのお客さんがいて、どのくらいの売上が上がるか
しかし忘れてならないのは、「独立する=美容室の経営者」になるということ。
経営者として利益を出して店舗経営を回していくことが何より重要なのです。
「一技術者から経営者」に立場が変わるというのは非常に意識しなければなりません。 スタイリストとして店舗に勤めている時だって売上のことは意識していたかも知れませんが、経営者は売上だけを考えていれば良いわけではありません。
- 経営者は売上だけでなく経費がどれだけかかるのか
- どのように資金を回していくのか
- 売上を伸ばすためにどのような戦略を立てるのか
- スタッフの求人募集や教育のこと
- スタッフの給料や社会保険・福利厚生など
このようなお店に関わること全てを自分で考え、決定しなければならないのです。
美容室は売上からスタッフの給料や材料代、店舗の賃料などの経費を支払っていくわけですので、売上がそのまま利益になるわけではありません。 大事なのは売上よりも利益です。
毎月の売上がいくら1000万あるお店であったとしても、経費が毎月1000万円以上かかっていては赤字なのですから当然です。
「目標利益」から逆算思考で理想の店舗を具体化しよう
経営者視点で「理想の店舗」について考えるには、まずはビジネスとして「毎月どれだけの利益を出したいのか?」から考えていくことがスタートになります。
なぜなら、 利益目標から逆算して考えていけば、
- 毎月どのくらいの売上が必要か
- 平均何人のお客さんを回す必要があるのか
- 客単価はどれくらいに設定する必要があるのか
- それを回していくのに必要なスタッフ数
- 店舗の広さやセット面の数
このようなことは自ずと見えてくるからです。
しかしながら、 売上ベースで考えてしまうと、売上シミュレーションを立てるのが難しくなります。
「売上目標400万円」と考えて、シミュレーションしてみたとします。
そこから、400万売り上げるには一人頭100万円としてスタイリストは4人だな。 4人で回すなら、このくらいの人数は可能だな…と考えて行ったところ、以下のようになります。
月の売上目標 | 400万円 |
スタイリストの数 | 4人 |
受付の数 | 2人 |
1日の平均の来店数 | 18人 |
客単価 | 7,500円 |
光熱費 | 30万円 |
備品代 | 30万円 |
テナント料 | 70万円 |
しかし、これでは経費を考えると収支がマイナスになってしまいます。 このように、売上ベースで考えていくと現実とのおり合わせがなかなか難しいのです。
これを防ぐためには、残したい「利益」から逆算思考していくことが重要となってきます。
利益ベースで考えると、他の経費から逆算して「テナント料は50万円までしか出せないな…」などといったことが見えてきますよね。 客単価がどのくらい必要なのか、どれくらい欲しいのかハッキリわかります。
経費はどのくらいかかるのか?

そして、ここで大事なのは「正しく経費を評価すること」です。
利益から逆算していくためには「経費がどのくらいかかるのか」を適正に評価できる必要があります。
利益目標にかかってくる経費を上乗せすれば適切な「売上目標」が見えてきますが、そもそもの経費の試算が間違っていたら元も子もないのです。
一般的に、美容室では以下のような経費がかかります。
- 人件費
- 賃料
- 材料費
- 水道光熱費
- 宣伝広告費
- 教育費
- その他
それぞれ、だいたいどのくらいかかるものなのでしょうか?
詳しくは後述していきますが、美容室の一般的な経費構造は以下のようになります。
人件費 | 全体の45~50% |
賃料 | 全体の5~10% |
材料費 | 全体の10~15% |
水道光熱費 | 全体の5~10% |
宣伝広告費 | 全体の2~5% |
教育費 | 店舗による |
その他 | 店舗による |
1. 人件費
厚生労働省の報告によると、美容師の平均給与は約21万円(残業代は含まず)ほどだそうです。
これはスタイリスト・アシスタントなどを区別してはおらず、都道府県による相場の違いなども考慮されてはおりません。 実際の相場はランクや売上高などにより変わります。
残業代なども含めて考えると、美プロ, キャリアピックスなどの転職サイトの情報を総合判断して、実際にはだいたい月あたり25万円前後あたりが平均かと思われます。
それに加え、人件費としては給与以外にも以下のようなものが必要です。
- 社会保険
- 交通費
- 福利厚生(家賃補助など)
- その他
社会保険は「会社」として事業を行う上では必ず加入する必要があります。
個人事業の場合は必須ではありませんし美容業界ではまだ浸透してはいませんが、スタッフさんたちが気持ちよく働くためには是非とも加入したいところです。
社会保険料はどの程度会社が負担することになるのでしょうか? これには以下の記事などで詳しく解説されていますので、参考にしてみましょう。
社会保険は「健康保険・厚生年金保険・介護保険・労災保険・雇用保険」 の5種類から成り立っていて、それぞれに会社が負担する割合が業種ごとに決まっています。
上の参考記事で詳しい内訳等は解説されていますが、その合計としてだいたい給与の15%ほどを会社が負担することになります。
ちなみに、ですが「5人以上事業主がいるなら個人事業でも加入必須」と思っている方もいるようですが、それは勘違いです。 法律では以下のように定められています。
強制適用事業所とは、次の1または2に該当する事業所で、事業主や従業員の意思に関わらず、法律により厚生年金保険等への加入が義務づけられています。
①次の事業所を行い、常時5人以上の従業員を使用する個人事業所
製造業、鉱業、電気ガス業、運送業、貨物積卸し業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介斡旋業、集金案内広告業、清掃業、土木建築業、教育研究調査業、医療事業、通信報道業、社会福祉事業(以上16事業)※強制適用とはならない主な事業(16事業以外)
第1次産業(農業・林業等)、サービス業(飲食店・理容理髪等)、法務(弁護士、会計士等)、宗教(神社・寺院等)②常時従業員を使用する国・地方公共団体又は法人の事業所
厚生労働省年金局事業管理課「厚生年金保険の適用促進対策について」
この通り、美容業は「5人以上なら必須」の条件から外れていますので、法律上の義務は特に無いのです。
スタッフの交通費支給をするかどうかも完全に経営者の裁量です。
美容師のスタッフを獲得するのは一部の有名店でもない限りなかなか難しいのも確かです。 多くの店舗が交通費の全額または一部支給を行っているのが現状でしょう。
また、交通費支給をつければ少しでも広範囲の美容師を募集することが可能になります。
求人情報を見ればわかりますが、「交通費」の平均は東京都で10,000円~20,000円の補助が出るのが一般的です。
福利厚生として一番効果があり、一番喜ばれるのは前述した社会保険です。 これは出来るだけ加入しておきたいところです。
それ以外にも福利厚生をつけるかどうかは、経営方針によるでしょう。
2. 賃料
サロンの賃料というのは高額である上、後になってからでは「削減しにくい経費」になりますので、サロンの物件探しは非常に重要だと言えます。
物件探しについては別の記事で詳しく解説しますが、賃料はサロンの売上の5〜10%以内に収まるようにすると良いでしょう。

3. 材料費・水道光熱費
材料費は先ほどの賃料とは逆に「削減しやすい経費」になります。
材料費を安く抑えるためには、「在庫を正確に管理して適正以上の量を購入しないようにする」ことが重要です。システム構築をするか、在庫チェックを業務としてルーティーン化しておくと効果的です。
一般的に、材料費は経費全体の10〜15%ほどだと言われています。
同様に、水道光熱費も「削減しやすい経費」です。 経費全体の5〜10%に収まるのが平均です。
4. 宣伝広告費・教育費・その他
宣伝広告は新規オープンしたばかりの店舗を知ってもらい、集客するには必要なものです。 広告の出し方には以下のようなものがあります。
- WEB広告
- ビラ
- 口コミ
- フリーペーパー
これらの媒体をバランスよく使い、適切に効果測定を行うのが大切です。 宣伝広告費は経費の2〜5%程度にしておくのが妥当です。
目標利益達成に必要な条件から理想の店舗を具体化していく

「どれくらいの利益をあげたいのか」が決まり経費構造が理解できるようになると、「実際のところどのくらいの売上が必要なのか」正しく判断できます。
スタイリストは4人、受付は2人で店舗を回そうと思えば、1日にこなせる来店数の平均は18人くらい欲しいかと思います。
ここで、経費を
- 人件費 : 30万 × 4人 + 20万 × 2人 = 160万円
- 光熱費 : 30万円
- 備品代は : 30万円
と考えていけば、「賃料は最大で50万円までだな」「客単価8000円くらいは必要か」などが判断できてきますので、売り上げも正しく立てることができます。
このように、まずは「利益ベース」で考えて売り上げをシミュレーションすることで、実現可能な店舗のイメージを経営者視点で描くことが可能になり、それを出発点に店舗づくりや物件選びのことを考えることができるようになるのです。
まとめ
以上、今回は美容室独立開業の最初のステップ「利益目標から逆算思考で理想の店舗を具体化する」というテーマで解説しました。 ポイントのおさらいをしておきましょう。
- 美容室独立開業をすると「一技術者」から「経営者」に立場が変わるので、考え方をシフトする必要がある
- 技術者としては「売上ベース」で考えがちだが、経営者としては「利益ベース」の考え方が重要
- 「目標利益」から逆算して売上シミュレーションをして、理想の店舗のイメージを具現化していく
- 美容業界の平均的な経費構造についての正しい理解も必要
それでは、今回は以上です。
これからも美容室独立開業についての情報発信を継続していきますので、独立開業を目指す全国のスタイリスト様の参考になれば幸いです。
次の記事では、「店舗名のネーミング」についてお話させて頂きます。