ー経営者としてサロンを繁栄させる
美容室独立開業を目指す上でこのように意気込む方も多いかと思います。あるいはそうではなく、個人店として肩肘張らない美容師ライフを目指して開業する方もいるでしょう。
そのどちらのパターンだとしても、避けて通れないのが確定申告(決算)などの「会計・税務」に関することです。個人でも法人でも事業を行う以上は収支を報告し税金を納めることが必ず必要になります。
さて、この連載も今回で第8回です。今回も第7回に引き続き会計・税務について解説いたします。
第8回の内容は「会計・税務に関するオープン前の準備」について解説いたします。
あなたは「確定申告のための準備っていつからすればいいの?」「経営するのに簿記の勉強って必要?」など疑問に思ったことはありませんか?
ぜひ、この記事で一緒に解決していきましょう。
開業前にしておくべき会計・税務の3つの準備
前回の記事にて確定申告や税務についての基礎知識をある程度解説いたしました。経営者となる上で、このような基本的な会計・税務に関することは少なくともある程度は知っておかなければなりません。
では、そのような勉強はどこまですれば良いのでしょうか?
また、それ以外に開業前に会計・税務に関してはどのような準備をしておけば良いのでしょうか? 以下の3つのセクションに分け説明していきます。
- 会計・税務の基礎知識をつける
- お店の会計・経理に関する環境整備
- お店の資金運用や取引に必要なものの準備
では、詳しく見ていきましょう。
【準備①】会計・税務の基礎知識をつける
この連載中でも何度も言及していますが、事業を運営する以上お金に関することは常にシビアに考える必要があります。
「知識がなくて、知らないうちに脱税していました」と言っても聞き入れてはもらえませんし、従業員を雇えば給料を支払わなければなりません。また、法人や事業主が受けられる助成金なども知らなければ損してしまいます。
このように、お金に関することは経営者たるもの規模の大小に関わらず意識的に理解して知識をつけていく必要があるのです。
では、どの程度の知識が必要なのでしょうか? これについては、「税理士や会計士を頼むか頼まないか」によって大きく変わってくると言えます。
税理士や会計士を入れない場合
税理士や会計士を入れず、自分で確定申告までするのであれば、正しく確定申告をするために必要な知識は一通り付けておく必要があります。
理解度の目安として、[日商簿記3級]に合格できる程度の知識を有していれば一番大変な帳簿つけについての知識は十分と言えます。
あとは国税庁や厚生労働省、日本政策金融公庫などのホームページなどを一度よく読み込んで確定申告や助成金などについて知識をつけておけば十分だと言えるでしょう。
税理士や会計士に依頼する場合
税理士や会計士に依頼するつもりなら、オープン前から会計・税務についてそこまで心配する必要はありません。依頼とともに相談を仰ぎながら必要な分を専門家のアドバイスのもとで学んでいけば、大きな問題が起こることはないでしょう。
しかし、サロンを大きく発展させていきたいと思うのでしたらやはりある程度税金やお金に関する理解は欲しいところです。
それでしたら記帳や簿記についての勉強を詳しくするのではなく、その分税金や節税などについての勉強をするのがおすすめです。
参考書類は評判も大事ですが自分が読みやすいと思えることがとても重要ですので、取り扱い数の多い本屋へ足を運んでみて見比べてみると良いでしょう。
【準備②】お店の会計・経理に関する環境整備
続いて、勉強・知識面などではなく、具体的な準備が必要な項目について解説していきます。以下の3つの項目について準備や検討を進めていきましょう。
- レジの検討
- 会計ソフトや帳簿の準備
- 税理士や会計士の検討・依頼
レジの検討
検討すべきもののひとつがお店に導入するレジのシステムです。レジにも様々なものがあります。
現金管理の機能とレシート発行の機能のみを持ったような単純なレジもありますし、インターネットと接続して様々な機能を持ったものもあります。
一般的に美容室経営で広く用いられており、仕入れ先の材料屋などからもよく提案されるのが「POSレジ」と呼ばれるものです。
POSとは「Point Of Sales」の頭文字で、日本語だと「販売時点情報管理」という意味です。つまりPOSレジとは「お客様との金銭やり取りをその場で記録・管理する機能を持ったレジシステム」のことです。
数年前からはインターネットと連動した「クラウドPOSレジ」と呼ばれるものが主流となっており、美容室向けに最適化された非常に高機能なモデルも多数存在しています。
例えば、電話や電子カルテと連動し、お客様から電話がかかってきたらそのお客様のカルテが画面に自動で表示されるような機能がついていたりします。
また、近年ではタブレットを利用して簡単に導入できる高性能レジシステムもあったりします。こちらもサロン専用のものが存在していますので、ぜひ検討してみると良いでしょう。
会計ソフトや帳簿の準備
確定申告に備えて帳簿付けをするための準備も必要です。 選択肢としては以下のようなものがあります。
- 手書き
- Excelシート
- 会計ソフト
手書きで帳簿をつけるのはなんとなく「イマドキではなく効率が悪い」というイメージを持っている方もいるかも知れませんが、帳簿付けに関しては意外と手書きも悪い選択肢ではありません。
手書きで帳簿をつけると以下のようなメリットがあります。
- 直感的でわかりやすい
- 取り掛かりやすく、毎日の帳簿付けが負担に感じにくい
- 見返しやすい
デメリットは想像通りで、効率の悪さと言えるでしょう。
手書きの場合は当然自動で集計や転記をすることはできませんので、現金出納帳や売掛帳などの補助簿でつけたのと同じ取引について、仕訳帳などの主要簿に転記が必要となることが多々発生します。
パソコンを使うにしても、専用ソフトを使わずにすでにお持ちのMicrosoft Excelを利用すれば余計な支出なしに帳簿付けをパソコンで行うことができます。
インターネットで検索すれば仕訳帳を記帳するだけで青色申告に必要なその他の必要書類を自動作成してくれるようなExcelエクセルテンプレートが配布されていますので、それらを利用すると便利です。
導入コストなしで利用できるのが大きなメリットですが、手書きのような直感性がないこと、そして会計ソフトのような便利な機能がないことがデメリットに挙げられ、少し中途半端なところもあります。
こちらの方法も税理士や会計士に依頼することを前提に、最低限のものだけ作成する場合におすすめです。
最も利便性が高いのは会計ソフトを使って管理することです。「弥生会計」などが昔から有名です。
会計ソフトには「スタンドアロン型」と「クラウド型」のものがあります。 基本的にスタンドアロン型は買い切りモデルで、クラウド型は月額または年額での継続支払いが必要です。
スタンドアロン型は最初に少々出費がかさんでしまいますが、一度買ってしまえばそれ以降継続出費はかかりません。
一方のクラウド型は継続利用料がかかりますが常に最新バージョンを利用できます。また、スタンドアロン型よりも高機能なものが多く、ネットを通じて銀行口座やクレジットカードと紐付けして自動入力してくれる機能などを有しています。
税理士などを通さずに自分で確定申告を行うつもりなら会計ソフトは非常に強い味方で、作業を効率化するだけでなく帳簿づけの知識が少なくても機能や工夫された操作性でだいぶサポートしてくれます。ぜひ利用を検討すると良いでしょう。
税理士や会計士の検討・依頼
ここまでの話の中でもかなりキーになっていましたが、税理士・会計士へ依頼するかどうかは非常に重要です。
会計・税務のプロに業務を依頼することで自分が本来したい仕事に集中できる という大きなメリットがありますが、その分費用もかかるからです。
顧問税理士をつけるのに要する費用は、一般的に売上高に応じて月額1万円〜3万円ほどです。
また、どこまでの書類を自分で作成し、どこからをお願いするかでも料金は変わってきます。
顧問してくれる税理士や会計士をつけることで、会計・税務や節税についての相談などをしてもらえたり企業時の事業計画書作成サポートを受けられるなどの大きなメリットがあります。
これを踏まえた上で料金を安いと思うか高いと思うかは自分の考え方次第です。 確かに青色申告は自分で行うこともちゃんと勉強すれば可能なことですので、よく検討してみましょう。
【準備③】お店の資金運用や取引に必要なものの準備
そして忘れては行けないのが事業用の口座開設やクレジットカードなどの準備です。
例え自分一人で切り盛りする個人事業であろうと、口座やカードはプライベートとお店用で絶対に分けておくべきです。一緒くたにしてしまうと帳簿付けなどの手間が非常に増えてしまうからです。
お店の印鑑も何かと必要となるので、作っておきたいところです。
- 事業用の銀行口座の開設準備
- 事業用のクレジットカードを作成する(必要に応じて)
- お店の印鑑の準備
事業用の銀行口座の開設準備
先ほど書いた通り、例え一人だけでお店を切り盛りする場合だとしても必ず口座は分けておきましょう。法人なら法人用口座が作れますし、個人事業主の場合でも屋号付きの口座を作成することが可能です。
銀行とひとくちに言っても都市銀行、地方銀行、ネットバンクとありますし、口座なら信用金庫などで開設することも可能です。どれを選ぶのが良いのでしょうか?
銀行の信頼性で言えばやはり都市銀行が一番です。都市銀行を使っていればどんな取引先からも余計な違和感などを持たれることはまずないと言えますので、メインバンクに都市銀行を選ぶのは良い選択肢と言えるでしょう。
個人事業の場合、地方銀行や信用金庫の口座を開設しておき良い取引を続けておくことで、もし事業拡大などで追加融資を受けたいと思った時に有利に働くことが考えられるので、地元の地方銀行や信用金庫で小規模融資に積極的なところがあればそこで口座開設するのもありでしょう。
ネットバンクは開設までが簡単で、またネット上からの操作がしやすいなどのメリットがあります。振り込み手数料無料の特典が都市銀行・地方銀行よりもお得だったりもしますので、インターネット系の事業を行う場合などは最も有力な選択肢です。
個人事業主の場合、事業用の口座に屋号を入れることも可能です。 屋号付きの口座にすると以下のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- 事業用の口座としてわかりやすくなる
- 事業主として信頼性が上がる
デメリット
- 同一銀行でプライベート用の口座を持っていたとしても手数料無料で「振替」することができない
- 開業届提出後でなければ作ることはできない
屋号を入れずに口座開設すれば、事業届提出前から口座の準備をしておくことができますし、プライベート用と事業用の口座間でお金のやりとりを手数料無料にて行うことができますので、実務上のメリットがあります。
一方で事業用口座に屋号を入れるメリットは他人から見た時の「信頼性」です。
取引先担当者が口座振り込みをする際、「ヘアサロン○○」や「○○ビヨウシツ」と屋号が入っていたほうが安心感があるだろうことは容易に想像できるかと思います。 逆にこちらから口座振り込みをする際も同様です。
法人の場合は法人名義の口座をぜひ作っておきたいところです。会社間の仕事をしているはずなのに個人口座への振り込みを依頼された場合、少なからず違和感を持つ方は多いと思います。
やはり信頼性に関わることですので、法人としての口座を開設するようにしましょう。
ただし、法人向け口座も会社設立後でないと申し込みできません。また、申し込みから口座開設まで1週間〜数週間程度の時間を要します。
さらには資本金があまりに小さかったりすると審査で落とされてしまうこともありますので、注意しましょう。
事業用のクレジットカードを作成する
銀行口座と同様、クレジットカードもプライベートと事業とでは分けるべきです。これは事業の規模問わず言えることです。
クレジットカードも法人カードと呼ばれる個人事業主や企業向けの専用のものがあります。一般に、法人カードには2つの種類があります。
ビジネスカード:個人事業主や中小企業向け。限度額や発行できる枚数が低めに抑えられています。
コーポレートカード:主に大企業向けです。発行枚数には限りがありません。
美容室経営を考える場合、従業員一人一人にクレジットカードを持たせる必要性は薄いと思いますが、一枚を会社ように用意しておけば、いろいろな場面で役に立ちます。
例えば、スタッフにコーヒー等のちょっとした備品の買い出しを頼む場合、カードを渡しておけば現金やりとりをしないですみますし、経理の処理も楽になります。
また、お店の水道光熱費などをカード払いにすることでポイントが貯まるメリットもありますので、ぜひ一枚事業用のカードを作っておくと良いでしょう。
お店の印鑑の準備
会社として美容室を開業するなら「法人印」という印鑑が必須です。また、個人事業であっても事業用の印鑑があると何かと便利です。個人用とは別に用意すると良いでしょう。
用意したい印鑑は以下のようなものがあります。
【個人事業】
- 屋号印
- 銀行印
- 角印
- ゴム印(住所・電話番号入り)
- (その他、プライベートとしての)実印・認印
【会社】
- 会社実印(代表者印)
- 銀行印
- 社印(角印)
- ゴム印(住所・電話番号入り)
まずは事業主個人として実印を作っておく必要があります。これは開業届に押す必要があるため、持っていない場合は作っておくようにしましょう。
そしてお店としては最低限「角印」「ゴム印」を作っておくのがおすすめです。
また、「銀行印」も個人のものと分けておいたほうがわかりやすいでしょう。
「屋号印」は会社でいう「代表者印」にあたるものですが、個人の場合は必要不可欠なものではありません。
作るメリットとしては、やはり「信頼性」や「事業主として箔が付く」と言ったところです。また、経営者らしさのある印鑑ですのでモチベーションの向上につながる場合もあります。
まとめ
以上、今回は「会計・税務などに関するオープン前の準備」について解説いたしました。今回の内容をおさらいしておきましょう。
- 会計や税務についての基礎的な知識は早くからつけておきたい
- 税理士へ依頼するかどうか、レジシステムはどうするか、会計ソフトはどうするかなどを検討する
- 事業用に銀行口座、クレジットカード、印鑑を作る
一部オープン後に行うものもありましたが、すぐに必要になるのであらかじめ準備・検討だけは進めておくと良いでしょう。
次回は「開業費用の経費化」について解説いたします。
この連載があなたの美容室開業の助けになれば嬉しく思います。