【Vol.10】確定申告前に困らない!日々の会計業務の基礎知識

ー独立開業したら避けては通れない経理・会計

美容師として独立開業し、美容室オーナーになるまでに必要なこと、知っておきたいことをまとめたこの連載も今回で第10回です。

この第10回では「日々の会計・経理業務の基礎知識」について解説いたします。


第7回からお金に関する話を続けていますが、今回は独立開業したあとを見越した話です。独立開業後は、個人なら確定申告会社組織でも決算申告が必要となります。

税理士や会計士を入れることでだいぶ負担軽減をすることが可能ですが、そうだとしても最低限どの税務・会計知識は絶対に必要となります。

あなたは、「お金の管理はどうすれば良いの?」「実際のところ帳簿ってどう付ければ良いの?」など疑問に思ったことはありませんか?

この記事ではそんな悩みを解決するため、詳しく解説致します。それでは見ていきましょう。

確定申告前に困らない!日々の会計業務の基礎知識

前回前々回で「美容室の運営には確定申告(決算申告)が必要なこと」「そのために決算書等の決められた書類作成が必要なこと」を解説しました。

今回はそれを踏まえ、「毎日の営業の中では何をどうすれば良いのか?」ということにフォーカスしてみましょう。日々の営業の中で最低限意識してやるべきことは、以下の2点です。

  • 現金出納帳をきちんとつける
  • 伝票やレシート、領収書、納品書などをファイリングする

たったこれだけの最低限のことさえ毎日やっていれば、決算期になって焦ることはひとまずありません。

それでは、詳しく内容を解説していきましょう。

健全な店舗運営に必要な現金出納帳とは?

日々必ず行うべき会計・経理業務として重要なのが、「現金出納帳をきちんとつける」ということです。 

特に美容室では現金でのやり取りがメインになってくると思いますので、これを溜め込まず毎日きちんとやっておくことが重要です。

現金出納帳とは?

現金出納帳とは、事業の中で現金がどのように動いているのか分かるよう記録しておく、また日々の営業の中で発生した現金による収入・支出を漏れなく記録するものです。

経理の中では「補助簿」と呼ばれるもののひとつで、直接確定申告などでの提出項目になっているわけではありませんが(それらは「主要簿」と言います)、主要簿を作成するのに必要となるものです。

「現金出納帳」と言われると少々難しそうに聞こえますが、実は誰でも直感的につけられるもので、さほど専門的な知識を要するようなものではありません。

以下のような形式で記録していきます。

出典 : コクヨ 三色刷ルーズリーフ B5 金銭出納帳 | Amazon

「きちんと家計簿をつける」くらいの感覚でできるものなので安心してください。実際の付け方は後ほど解説いたします。

現金出納帳は毎日つけて金庫と一致させる

現金出納帳をきちんとつけていれば、現金出納帳上で計算される残高と実際に手元にある現金(金庫やレジ内の現金)が必ず一致するはずです。

したがって、毎日営業終了後にレジ締め作業をして残高を確認し、それと共に現金出納帳もきちんとつけて残高の一致を確認することが大切です。

これを毎日行うことで記帳漏れにすぐに気づいたり、お釣りの渡し間違えなどのミスにも早期に気づくことができます。

また、このようなことはあまり考えたくはありませんが、万が一従業員による盗難などの不正があった時も早期発見にもなりますし、そもそも防止としても効果を発揮します。

どんぶり勘定ではなくきちんと管理していることがわかれば従業員も軽はずみな不正などをしようとは思わなくなるでしょう。

現金出納帳の書き方

それでは、現金出納帳の書き方について解説していきましょう。

現金出納帳の記入項目

現金出納帳の記入項目は以下のとおりです。

  • 日付
  • 勘定科目
  • 摘要
  • 収入金額または支出金額
  • 差引残高

① 日付

実際にお金の支払いまたは収入があった日付を記入します。 

② 勘定科目

勘定科目というのは少々聞き慣れない用語かもしれませんが、経理で使われるカテゴリー(分類項目)みたいなものです。

例えば…

セミナーへいくための交通費なら「旅費交通費」、材料の仕入れなら「仕入」や「材料費」、売り上げは「売上」という勘定科目を記入します。

材料の仕入れの例で「仕入」や「材料費」という言い方をしましたが、毎回適当に記入すれば良いわけではなく、使う勘定科目はあらかじめ決めておきます。後ほど詳しく解説します。

③ 摘要

摘要とは、誰とどんな内容の取引があったのか分かるように記入するための項目です。基本的に、内容が分かるような書き方であれば問題ありませんが、一度決めた書き方を一貫して続けていくことは大切です。

どのくらい詳しく書くかの目安としては、それをみればどんな内容の支出(または収入)があったのか自分が分かり、人に説明できる程度であれば問題ありません。万が一税務署の調査が入った場合などに対応できるように記入しておきましょう。

つまりは、もし調査が入った場合に突っ込まれそうなものほどきちんと書いておくことが重要です。

例えば…

「昼食代」や「旅費交通費」などは何の目的で経費扱いにしているのか説明できるように、自分がそれをみて思い出せるように記入しておきましょう。

*昼食代なら「昼食代(セミナー参加時)」や「昼食代(スタッフ会議として)」など

逆に、売り上げや材料代など何度も繰り返し登場し、伝票や納品書を見れば詳細が分かるような項目については簡単に書いてしまって大丈夫です。

例えば…

契約しているウォーターサーバーの料金などは、誰に支払ったのかは明白ですので単に「ウォーターサーバー代金」などだけ記入すれば十分です。

④ 収入金額または支出金額

こちらは単純に金額をそのまま記載すれば問題ありません。

⑤ 差引残高

収入または支出によって残高がいくらになったのか計算して記入します。

ここの残高が常に手元にある現金と一致しているのが理想です。

実際の現金出納帳の書き方

それでは、実際の書き方をみていきましょう。 以下のような1日を例としてあげてみます。

  • 10:00 オープン レジ・金庫内の現金が合わせて100,000円
  • 10:50 お客様会計 現金支払いで+4,000円
  • 11:30 お客様会計 現金支払いで+8,000円
  • 13:00 材料屋が来る 現金で材料代支払い-30,000円
  • 13:30 お客様会計 現金支払いで+12,000円
  • 14:00 空いた時間でちょっとした文具を買ってくる -1,000円
  • 15:00 お客様会計 カード支払いで+12,000円
  • 15:10 契約しているウォーターサーバーの水が届く 現金支払いで-5,000円
  • 17:00 お客様会計 現金支払いで+15,000円
  • 18:00 お客様会計 現金支払いで+8,000円
  • 19:00 お客様会計 現金支払いで+12,000円
  • 19:00 クローズ レジ締め時、レジ・金庫内の現金が123,000円だった

これを現金出納帳に記帳すると以下のようになります。

日付勘定科目摘要収入金額支出金額差引残高
2020/6/1売上売上¥59,000¥159,000
2020/6/1仕入○○商事; 材料代¥30,000¥129,000
2020/6/1消耗品費文具代(ボールペン等)¥1,000¥128,000
2020/6/1販売促進費ウォーターサーバー代¥5,000¥123,000

本来言えば、お金の流れが完璧に分かるように売り上げも発生するごとに分けて詳細に記載すべきなのですが、実務上それだと負担が大きいこともあり、1日単位でまとめて記入することが認められています。 

また、実際にレジ締めで確認した現金と出納帳の差引残高が一致していることも確認しておきましょう。

事業主自身のお金の出し入れはどう記入する?

自宅に美容室を併設して個人で美容室経営を営む場合などは、自身のお財布と事業の資金の境目が分からなくなりがちなのが正直なところだと思います。

もちろん、理想を言えば厳密に分けておくべきなのですが、以下のようなことも多々出てくると思います。

  • 夕飯の買い出しついでに、美容室でお客さんに出すコーヒーや美容室に置いておくティッシュなどの消耗品も一緒に購入する
  • 急な私用に必要なお金をレジから一時的に出す
  • 国民健康保険をレジのお金から支払う

こんな風になりがちな個人事業主の場合はどのように記帳すれば良いのでしょうか?

答えは意外とシンプルです。たった2つの勘定科目に分ければ良いのです。

  • 事業主貸(お金を私用のため利用する時)
  • 事業主借(個人の財布で美容室関連の物を買った時)

簡単に言えば、個人の財布で美容室関連の物を買った時は「事業主借=事業主から借りた」で処理し、逆に店のお金を個人として利用する時は「事業主貸=事業主へ貸した」で処理します。 

例えば、夕飯の買い出しついでにお店に関する物を1,000円分個人の財布から買った場合、以下のように現金出納帳に記帳します。

日付勘定科目摘要収入金額支出金額差引残高
2020/6/1事業主借生活費からレジへ入金¥1,000¥101,000
2020/6/1消耗品費ティッシュ等¥1,000¥100,000

一度お金を財布からレジへ移して、それからレジのお金で支払ったと思えば良いのです。

逆に、レジのお金を使って国民健康保険30,000円を支払ったとするとどうでしょうか? この場合現金出納帳へは以下のように記載します。

日付勘定科目摘要収入金額支出金額差引残高
2020/6/1事業主貸生活費として(国民健康保険税代)らレジへ入金¥30,000¥70,000

実際のところ、個人の財布へ移したあとは何に使おうが事業とは関係ありませんので、摘要は「生活費として」だけでも構いません。

ただし、あとで自分でみて分かるようになっていた方が便利かとは思いますので、上の例のように記入しておくと良いでしょう。

美容室の経理で使う勘定科目

上の例を見ると現金出納帳はそんなに難しいものではないと分かるかと思いますが、唯一少々難しいのが「勘定科目」かと思います。

勘定科目はあらかじめどのような物を使うのか決めておくべき物で、美容室経営では以下のような勘定科目がよく使われます。

資産

現金レジや金庫にある現金
預金事業用の預金口座にあるお金
売掛金カード払いなどによるまだ手元に入ってきていない売上金額
事業主貸事業主へ貸しているお金(プライベートの財布へ入金したお金)

負債

買掛金カード払いなどをした際のこれから支払うお金
預り金従業員の給料から天引きした税金のお金など
借入金開業資金などで借り入れしたお金
事業主借事業主から借りているお金(プライベートの財布から入金したお金)

収入

売上技術や店販による売上
雑収入その他の収入

支出

仕入材料の仕入
地代家賃店舗の家賃
水道光熱費店舗の水道光熱費
通信費事業で使う電話やインターネット回線の費用
給料手当従業員への給料
専従者給与家族を従業員としている場合は給料はこちらを使う
福利厚生費従業員への福利厚生にかかる費用
消耗品費事務用品や店舗の装飾品などにかかる費用
接待交際費お客様や取引先への接待にかかる交際費
諸会費美容連盟への加盟費など
会議費スタッフとの会議や、取引先や税理士との会議などにかかった費用
保険料店舗の火災保険など
旅費交通費セミナー参加や出張などにかかった交通費
広告宣伝費広告宣伝にかかった費用
新聞図書費店舗で用いる雑誌などの費用
租税公課税金など
支払手数料料金支払時にかかった手数料
支払利息借入金の支払い時に払った利息
雑費決めておいた勘定科目に該当しない細かい出費

必ずしも上の通りである必要ではありません。

例えば…

「サービス費」や「売上促進費」などといった勘定科目を用意しておいて、お客様へ提供するコーヒー代や雑誌代をここに分類することも可能です。

自分がわかりやすく処理しやすいように定めれば良いのですが、「一般的なやり方」からあまり外れると問題が発生することもありますので、できれば税理士などにアドバイスを受けるのがベストでしょう。

コラム|こんな時どうする!? わかりにくい「仮払い」の記帳のしかた

現金出納帳への記録は基本的には単純に支出・収入があったら記録すればいだけなので簡単ですが、少しわかりにくい例を解説しておきましょう。

例えば…

6/1にスタッフの山田さんに「出張費」として1万円を預けたとしましょう。

6/3にそのスタッフは出張に行き、諸々必要な支出をその1万円の中から支払い(交通費3,000円、セミナー参加費4,000円、昼食代1,000円)、6/4に領収書と残ったお釣り2000円をオーナーに返したとします。

そんな時でも、できるだけ正確性高く記録することが重要です。 このような場合、以下のように記入します。

日付勘定科目摘要収入金額支出金額差引残高
2020/6/1仮払金山田; 仮払金(出張費)¥10,000¥90,000
2020/6/4仮払金山田; 仮払金返金¥2,000¥92,000
2020/6/4旅費交通費旅費交通費¥3,000¥97,000
2020/6/4研修費研修費¥4,000¥93,000
2020/6/4研修費研修費¥1,000¥92,000

ポイントは、領収書の日付が6/3になっていても、精算処理をした日付(ここでは6/4)で記帳するということです。

その際は分からなくならないように、領収書やレシートにも精算日のメモを書き入れておくと良いでしょう。

経費の領収書などの保管方法

現金出納帳ともう一つ日々やるべきなのは、売上伝票や領収書、納品書などの保管です。

これらの書類は確定申告の内容が事実と違いないことを示す証拠として保管義務があります。それ以前に、帳簿作成の際も使いますので必ず見返しやすいように整理して保管するようにしましょう。

ちなみにですが、どうしても経理に関することが苦手でやりたくない場合、とりあえずこれらのような書類が全部整理して保管さえされていれば全て税理士にお願いすることもできなくはありません。

ただし、現金出納帳くらいは自分で作成しておかないと料金がかなり高くなってしまうのでその点は覚悟する必要があります。

売上伝票

手書きで売上伝票をつけている場合でも、POSレジなどを利用している場合でも、どちらにせよ売上に関する記録がわかる状態で残っていることが重要です。

日付順にファイリングするなりノートに貼っておくなりして見返しやすく整理しておきましょう。

領収書やレシート

経費に関わる領収書やレシート類は全て保管する必要があります。こちらも日付順に整理して保管しておくと良いでしょう。

ただし、後日精算した場合は精算日のメモを書き入れた上で、精算日の方の日付で保管しておいた方が便利です。

ちなみに、経費にするためには必ず領収書が必要だと思っている方もいますが、実は普通のレシートでも全く問題ありません。むしろ、スーパーやドラッグストアでの消耗品などを購入した際などは何を買ったのかの明細が書かれているレシートの方が証拠能力が高いくらいです。

さらに言えば、事業用の買い物とプライベートの買い物が混ざってしまっているレシートでも問題ありません。そのような時は、事業用の買い物分にだけラインマーカーなどを引いてわかるようにしておきましょう。

納品書や利用明細

領収書やレシートだけではなく、仕入などの納品書や、電話や水道光熱費の明細などもそれぞれに整理して保管しておきましょう。

証拠能力があるものはできるだけ取っておき、整理して保管するくせをつけるようにしましょう。

現金以外の収支はどうすればいい?

ここまで現金に関する話ばかりしていましたが、カード払いや掛売りなどはどのように処理すれば良いのかわかりにくいところですね。

これらは取引時に現金は動かないので現金出納帳へは記載するわけにはいきません。それではどのように処理しておけば良いのでしょうか?

カード決済の売上に対しては売掛帳を作成する

店舗でクレジットカード支払いに対応している場合、カード払いによる売上が発生することもあるでしょう。カード払いの場合、現金出納帳と同様に「売掛帳」という帳簿を作成して管理します。

売掛帳はほとんど現金出納帳と似たような形式ですが、「収入金額 → 売上金額」「支出金額 → 受入金額(入金金額)」と少し変更されています。

これによってクレジットカードによる売上が今月どのくらいあり、後日いくらが入金されるのかきちんと把握することができるようになります。

ポなお、高機能なPOSレジを利用していたり、会計ソフトを使って普段から帳簿付けしていればあまり意識することなくこのような記録も取れていますので大変便利です。

材料を掛け買いするなら買掛帳を作成する

材料ディーラーからの仕入を掛け買いする場合、先ほどの「売掛帳」と同じように「買掛帳」という物を作成します。書き方や考え方はさほど変わりません。

やはり会計ソフトを利用すればこのように作成すべき帳簿が増えた場合も対応が楽なので、複雑になってきたときほど会計ソフトの利用がおすすめです。

事業用のクレジットカードも買掛帳で対応

クレジットカード払いで事業関連の費用を支払う場合も同様に「買掛帳」で対応します。買掛帳は取引先ごとに作成しますので、材料の掛け買いをしている場合でも別に作成します。

また、複数のクレジットカードを利用している場合は1枚ごとに1つ作成します。

なお、クレジットカードに関しては利用明細がそのまま買掛帳として機能しますので、実はわざわざ買掛帳を改めて作成しなくても問題はありません。

ただし、常にお金の動きを把握するという意味では作成しておく意味は十分にあります。

銀行口座は預金通帳が帳簿の代わり

銀行口座に関しては、預金通帳がそのまま帳簿として機能しますので新たに補助簿を作成する必要はありません。

通帳本体をきちんと保管しておきましょう。

まとめ

以上、今回は「日々の会計・経理業務の基礎知識」について解説いたしました。今回の内容をおさらいしておきましょう。

  • 日々の経理業務としては「現金出納帳の作成」と「売上伝票や領収書などの整理・保管」が必要
  • 現金出納帳は現金の流れを記録し把握するための物で、常に帳簿残高と実際の現金残高が一致する
  • 税理士へ依頼する場合でも現金出納帳くらいは最低限自分で作成しておきたい
    (税理士費用の節約の意味でも、お金の流れを把握して不正を防ぐ意味でも)
  • 売上伝票や領収書、利用明細などは全て保管する。日付順に整理して見返しやすいようにファイリング等すること

以上のことが日々やるべき会計業務ですが、実際やるとなると分からないことも多いかと思います。

そのために開業前から少しずつ勉強しておくのもとても価値のあることですし、税理士の方へ相談を仰いでおくとより何をどのくらいやれば良いのかわかり安心するかと思います。

そこで次回は「美容室経営に税理士や会計士は必要か?」について解説いたします。

この連載があなたの美容室開業の助けになれば嬉しく思います。