【Vol.22】候補物件についての詳細調査

ー美容室経営成功の鍵を握る、不動産選定

独立開業したサロンが成功するか否か、70%以上を決めると言われる不動産選定。本連載では前回まで「不動産屋を利用して物件を探していく具体的な方法」について解説して参りました。

ここからは候補物件を見つけてからの動きについて解説していきます。

今回は「候補物件についての詳細調査」についてです。

物件確定前に詳細情報を確認したいポイント

候補となる物件が見つかったら、自分の目や足を使い、より具体的な調査をして理想に合致しているかどうかの判断をしていきます。

特に、以下の4点について調査していきましょう。

  • 時間帯別・曜日別の人の流れの情報
  • 以前のテナントについての情報
  • 近隣美容室の情報
  • 建物・近隣テナントに関する情報

詳しくみていきます。

時間帯別・曜日別の人の流れの情報

まず、物件付近を通る人の数、流れを時間帯別・曜日別に確認しましょう。

美容室経営では、地元の固定客の獲得が重要です。通勤・通学する地元の方に何らかのアピールをしていくことが大切となります。そのためにも、周囲に住む方の動きを確認しておきましょう。

少なくとも、平日と土日祝日の両方で、次の時間帯について調査を行いましょう。

  • 朝(08:00前後)の通勤時間帯
  • 昼(15:00前後)の買い物の時間帯
  • 夕(18:00-19:00)の帰宅時間帯

見るべきポイントとして物件の近辺に、「どんな属性の人がいるのか?」「どれくらいの人がいるのか?」「どのように人が流れているのか?」これらを自分の目で見て確認することです。

また、物件の近隣を自分で歩いてみて、人が集まる場所(スーパーや行政機関など)を確認しておくと良いでしょう。

近くにランドマークとなる建物がある場合、それがあることで店舗に良い影響があるのか、悪い影響があるのかまで推測してみましょう。

以前のテナントについての情報

2つ目に、その店舗物件に前入っていたテナントについて聞き込み調査をしてみましょう。

調査ポイントは、「どんなテナントが入っていたか?」「印象はどうだったか?」「前のテナントはなぜ撤退したのか?」これらをを調査すると良いでしょう。

前のテナントが地域に対してマイナスのイメージを持たれていた場合で、それが同業種であった場合、特に注意が必要です。

そのような場合、地域の人々のイメージの中で同一視されてしまい、最初からハンデを背負って開業しなければならなくなる可能性があります。

また、一見して良い立地の様に見える場合でも、土地固有の問題で難しい理由があることもあります。聞き込みにて、「前のテナントの移動理由」がわかれば参考になるでしょう。

当然ながら、地域のことはその地域にいる方が一番詳しいです。聞き込み調査は以下のような人を中心に行うとよいでしょう。

  • 地場の不動産屋さん
  • 近隣のお店のスタッフ

もちろんだが、質問する際はくれぐれも丁寧に、印象よくを心がけましょう。自分のお店のご近所さんになるかも知れない、大事な人たちという意識を持って聞き込み調査しましょう。

近隣美容室の情報

近隣の美容室を調査しつつ、仮想ライバルの想定をするとよいでしょう。

近隣店舗のターゲット層やコンセプトなどを自分の目で見て把握し、自店の競合となるお店を仮想ライバルと設定します。これにより戦略が考えられると共に、この地域に出店すべきかどうかの大きな判断材料となるのです。

近隣同業者の調査において、少なくとも以下の情報は抑えたいところです。

  • 開店・閉店時間
  • メニュー
  • 値段
  • 広さや鏡の枚数
  • お客さんの入り具合

1. 開店・閉店時間

美容室の必勝法則の中に、「近隣の同業者よりも1時間早く開けて、1時間遅く閉める」というのがあると言います。

ただし、強みやターゲット層が明確な場合はこの限りではありません。ターゲット層の需要に合わせた営業時間を設定することで、無駄のない経営をして利益を確保することが可能です。

また、無理に営業時間を伸ばさなくても「競合店と時間帯をずらす」という方法も考えられます。

最終的には自店のコンセプトやターゲット層と照らし合わせた上で営業時間を決めていきますが、地域の平均的な開店時間・閉店時間を知っておくことは大切でしょう。

2. メニュー

美容室の必勝法則の中に、「少なくとも近隣の同業者と同じメニューは揃える」というのがあると言います。

周辺が行っているメニューは抑えつつ、自店独自の施術メニューも盛り込んでいくのが良い組み立て方です。

競合店が行っているメニューを取り揃えることで、美容室の乗り換えを検討するお客様が不満なく乗り換えできます。

ただしこの場合も自店の強み・ターゲット層がはっきりしている場合はこの限りではありません。とはいえ、メニューを考える上での重要な判断材料として、競合情報はきちんとリサーチしておきましょう。

3. 値段

周辺店舗の値段相場は価格決定の大きな参考になります。周辺よりも明らかに高い値段設定をする場合、当然お客様たちからも「ここは高いお店だ」と認識されることになります。

周辺店舗の値段相場を踏まえた上で、自店のコンセプトやブランディングなどを考えて価格決定することが重要です。

また、競合店の価格設定を見る事でその店の平均単価もおおむね予想することが出来ます。

多くの美容室の場合、「カット+カラーの合計の80~85%」が概ね平均単価になると言われています(トリートメント特化の美容室など、もちろん例外はあります)。

4. 広さや鏡の枚数、スタッフの人数、お客さんの入り具合

これらを確認することで、近隣の美容室の財政状況が推定することできます。

平均単価とお客さんの入り具合から概ねの売り上げ予想が、スタッフ数や敷地面積から経費予想ができます。

もし地域の美容室が赤字ばかりと推定される場合、何らかの理由があるはずです。自分の推定方法が間違っている、この地域では予想よりも客単価が高い、物件の家賃が予想よりも安いなどです。

これらを考えることで、自店の収支シミュレーションを立てられ参考になるだけでなく、自店の価格設定やメニュー選定にも役立ちます。

建物・近隣テナントに関する情報

物件自体の情報や、近隣テナントに関する情報収集も必要です。少なくとも以下の情報は抑えておきましょう。

  • 同じビル内や、隣接する建物内のテナントの情報
  • 美容室対応可不可・内装工事の必要性
  • その他、抵当権や補足情報

1. 同じビル内や、隣接する建物内のテナントの情報

まず、同一ビル内や近隣の建物に入っているテナントについて情報収集をしましょう。

情報収集のポイントは、「どのような業種で」「どのくらいの繁盛していて」「どんなお客さんをターゲットにしているのか」を調べておくと、自店への影響を考える参考になります。

また、「以前の物件を使用していた店舗との交流関係」「家賃(テナント料)」「以前の物件を使用していた店舗の繁盛具合(前述の通り)」「商店街やビルに固有のルールなど」も聞いてみましょう。

テナント料について聞くことができれば自店の賃貸契約に大いに参考になります。特に、同じビルの場合はオーナーが同一になりますので、交渉を有利に進める材料になるでしょう。

また、近隣店舗のオーナーさんの人柄も大切な情報です。聞き込みをしながら挨拶して、人柄を覚えておきましょう。

2. 美容室対応の可不可・内装工事の必要性

以前に美容室ではないテナントが入っていた物件の場合、美容室として使用できるのか確認することが必要です。

権利的に可能かどうか確認することは当然として、水道や電気など、美容室として使用する事が物理的に可能なのかも忘れずチェックしましょう。

例えば、引込水道管の口径はシャンプー台の水量などに影響を与えます。美容室営業で必要な水量を確保するには、引込水道管口径が20ミリ以上あれば安心です。

また、都市ガスなのか、プロパンガスなのかによって毎月のガス代は大きく変わります。都市ガスの物件の方がかなり割安となります。

他にも、「使用可能な電気のアンペア数」「どの程度の内装工事が必要か」などもチェックする必要があります。

これらの情報を正しく判断するのは難しいため、依頼したい内装屋さんと一緒に内見するようにすると効率的です。内装費用の見積もりもその場で出してもらえますので、物件決定の大きな参考になりますし、プロならではの視点でアドバイスもしてもらえるでしょう。

3. その他、抵当権や補足情報

不意のトラブルを避けるため、抵当権や契約の特記事項などがあるかないかもよく確認しておきましょう。抵当権について、SUUMOの住宅用語辞典より引用いたします。

> 抵当権とは、住宅ローンなどでお金を借りた際に、万が一、借りた人(債務者)が返済できない(債務不履行)場合に土地や建物を担保とする権利のこと。

> 抵当権を設定した不動産については、返済のためにその不動産が競売などにかけられた場合、抵当権者は他の債権者に優先して弁済が受けられる。

[抵当権(テイトウケン)の意味・解説] SUUMO/住宅用語辞典

その他、契約の特記事項についてはよく確認して、疑問点は契約前に全て解消しておきましょう。

まとめ

  • 自分の目・耳・足を使い、候補物件について詳細な情報を収集することが重要
  • 時間帯別・曜日別の人の流れ、以前のテナントについて、近隣の美容室について、建物内や近隣テナントについては一通りチェックしておくと良い
  • ここに出店した場合、競合する仮想ライバルを設定して、この土地に出店すべきかどうかの判断材料とする

次回は、「賃貸契約の流れと契約の注意点」について解説いたします。

この連載があなたの独立開業の助けになれば幸いです。